新世界訳
エホバの証人の聖書

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フィリピ 2:9

◇ 新世界訳参照資料付き聖書 [1982年版] ◇ (エホバの証人)
まさにこのゆえにも,神は彼をさらに上の地位に高め,他のあらゆる名に勝る名を進んでお与えになったのです。

◇ 新世界訳参照資料付き聖書 [1985年版] ◇ (エホバの証人)
まさにこのゆえにも,神は彼をさらに上の地位に高め,[他の]あらゆる名に勝る名を進んでお与えになったのです。

◇ 新世界訳聖書 [2019年改訂版] ◇ (エホバの証人)
そのため,神はキリストをさらに上の地位に就け,あらゆる名に勝る名を喜んで与えました。

◇ 新改訳聖書 [2017年版] ◇ (ファンダメンタル)
それゆえ神は、この方を高く上げて、すべての名にまさる名を与えられました。



 この聖句では、新世界訳参照資料付き聖書の訳文に“他の”の挿入があります。これはどうしてでしょうか。

 この問題について考えるにあたっては、まず、ギリシャ語の「すべて」という語には「ほかのすべて」の用法があるということを知っておく必要があります。この点については、このサイトではすでに何度も取り上げています。文法的な解説については、コロサイ 1:16-17の項をご覧ください。

 この聖句は、神がイエスに「すべての名に勝る名」を与えた、という内容になっています。すると、ここで言うところの「すべての名」には神の名が含まれているのだろうか、イエスは神よりも高められたのだろうか、という疑問が生じることになります。
 もちろん、ここで言う「すべての名」に神の名は含まれていません。このことは自明ですので、解説する必要すらないくらいです。
 イエスは神の子です。神は絶対者ですから、イエスが神より偉くなることはあり得ません。

 この文における主語は「神」ですので、ここで用いられている「すべて名」という表現には「神以外のすべての名」という意味があるようです。この、主語(着眼点)ということについては、使徒 10:36の項をご覧ください。
 新世界訳参照資料付き聖書は、聖書のギリシャ語の用法をよく把握したうえで、そのニュアンスを厳密に訳出しようとしています。改訂版は、訳文をシンプルにするという方針にしたがって細かいニュアンスを省いているようです。一方の新改訳聖書は、ギリシャ語の「すべて」を単に機械的に訳出し、用法ということを考えなかったものと思われます。
 新世界訳参照資料付き聖書の1985年版には角括弧が使用されています。これについては、「ギリシャ語パースと救いの概念」のほうで説明している事情が関係しているかもしれません。適宜参照してください。

 聖書には、フィリピ 2:9が生じさせるかもしれない誤解を気にした様子があります。これを見てみましょう。
 まずはヘブライ 1:2-4です。



ヘブライ 1:2-4

◇ 新世界訳参照資料付き聖書 ◇ (エホバの証人)
これらの日の終わりには,み子によってわたしたちに語られました。[神]は彼をすべてのものの相続者に定め,また彼を通して事物の諸体制を作られました。彼は[神の]栄光の反映,またその存在そのものの厳密な描出であり,その力の言葉によってすべてのものを支えておられます。そして,わたしたちの罪のための浄めを行なった後,高大な所におられる威光の右に座られました。こうして彼はみ使いたちよりも優れた名を受け継ぎ,それだけ彼らに勝る者となられました。



 ここでは、「すべての名」が「天使たちの名」に言い替えられています。この言い方だと、神の名がそこに含まれる可能性はなくなります。
 さらに、コリント第一 15:24-28です。



コリント第一 15:24-28

◇ 新世界訳参照資料付き聖書 ◇ (エホバの証人)
次いで終わりとなります。その時,彼は王国を自分の神また父に渡します。その時,彼はあらゆる政府,またあらゆる権威と力を無に帰せしめています。[神]がすべての敵を彼の足の下に置くまで,彼は王として支配しなければならないのです。最後の敵として,死が無に帰せしめられます。[神]は「すべてのものを彼の足の下に服させた」からです。しかし,『すべてのものが服させられた』と言うとき,すべてのものを彼に服させた方が含まれていないのは明白です。しかし,すべてのものが彼に服させられたその時には,み子自身も,すべてのものを自分に服させた方に自ら服し,こうして,神がだれに対してもすべてのものとなるようにするのです。



 この句は、「名」という表現を用いてはいませんが、だいたい同じことを言っています。そして、「すべて」という言い回しをいい加減な読み方で読んだ場合に生じる誤解をとがめています。






 エホバの証人統一協会対策香川ネットの自称宗教研究家正木弥氏による「ものみの塔の新世界訳聖書は改ざん聖書」は、この聖句についてこのように批評しています。



◇ 「ものみの塔の新世界訳聖書は改ざん聖書」, 正木弥 (表記修正)

 逐語訳と英文新世界訳を比べてみてください。英文新世界訳には[other]が挿入されているでしょう。本文にはないことばをつけ加えているのです。しかもここでは、[ ]書きをつけておらず、日本人には挿入があることすら判らないようにしてあるのです。[他の]というつけ足しがなければ、キリストの名(実体)はすべての上にあるようにされたということですが、[他の]ということばが挿入することにより、神以外の存在よりは上としても神よりは下の存在のままである、ということにしました。つまり、キリストは神ではない、というエホバの証人の教理に合わせるために、[他の]をつけ加えたということになります。教理に合わせた聖書の改ざんがここでもなされています。



 また、職業的反対者の岩村義男氏は「神のみ名は「エホバ」か」の本の中で、フィリピ 2:9-10を引用しながらこの聖句の問題を指摘しています。



◇ 「神のみ名は「エホバ」か」, 岩村義男, いのちのことば社 (表記修正)

 『新世界訳』は、[他の]を挿入して、自分たちの教理に合うように改ざんしています。「他の」というギリシャ語は本文にありません。……被造物すべてが主イエスにかがみ、祈るわけです。



 彼は意図的にフィリピ 2:11を省いたようです。フィリピ 2:11が示しているように、祈りの対象は神であってイエスではありません。



フィリピ 2:9-10

◇ 新世界訳参照資料付き聖書 ◇ (エホバの証人)
まさにこのゆえにも,神は彼をさらに上の地位に高め,[他の]あらゆる名に勝る名を進んでお与えになったのです。それは,天にあるもの,地にあるもの,地の下にあるもののすべてのひざがイエスの名によってかがみ,

フィリピ 2:9-11

◇ 新世界訳参照資料付き聖書 ◇ (エホバの証人)
まさにこのゆえにも,神は彼をさらに上の地位に高め,[他の]あらゆる名に勝る名を進んでお与えになったのです。それは,天にあるもの,地にあるもの,地の下にあるもののすべてのひざがイエスの名によってかがみ,すべての舌が,イエス・キリストは主であると公に認めて,父なる神に栄光を帰するためでした。



 彼が同じようなトリックを使った例にヨハネ 14:14があります。

 正木弥氏と岩村義男氏はともに、イエスは神であって祈りの対象であるということが言いたいようです。