JWPC - Jehovah's Witnesses Press Club
輸血拒否のための法的・技術的情報
「医師とエホバの証人の患者との間にある溝に橋を架ける」
2000年1月1日更新

「医師とエホバの証人の患者との間にある溝に橋を架ける」
 世界中の医師たちは基本的に、エホバの証人に関する一つの事実、つまり彼らは輸血を拒否するということを知っています。しかし、多くの医師は証人たちについて、それ以外のことをほとんど知りません。ですから、エホバの証人の患者に輸血をしようとしてそれが拒否されると、医師たちはエホバの証人のことを、全く道理をわきまえない人たちだと思うかもしれません。残念ながら、そのようにして生じた溝が医師と患者を隔ててしまうことがあります。
 エホバの証人が医療に反対しているのではなく、血に関するその立場は妥協の許されない、聖書の律法に固く根ざしたものであることを理解している医師はごく少数に過ぎません。一方、同種血輸血の危険と、輸血の代替手段の安全性とを示す科学上の新発見が相次いだことにより、聖書的なこの立場の合理性は次第に認められるようになりました。しかし、エホバの証人はどうすればこの情報を医学界に伝えることができるでしょうか。
医療機関連絡委員会
 そのためエホバの証人の統治体は、大きな医療施設のある大都市に医療機関連絡委員会を設置するようにという指示を出しました。米国では各々平均5人の奉仕者から成る100ほどの委員会が、すでに医学界と証人たちの間の橋渡しをしています。今年の初め、この取り決めは他の国々にも広げられ、(1990年の)2月19日から3月27日にかけて、ブルックリンのホスピタル・インフォメーション・サービスの3人の成員が太平洋地域にあるエホバの証人の八つの支部事務所を訪れました。
 それには三つの目的がありました。それは、前もって選ばれた、医療機関連絡委員会の仕事に携わる奉仕者となる証人たちを訓練するためにセミナーを開催すること、各支部の医療機関情報デスクの奉仕者を訓練すること、エホバの証人に対する無輸血の治療が今後も広く行なわれるよう奨励するため、病院と医師を訪問することでした。セミナーは四か所で開催されました。一つはオーストラリアとニュージーランドのためにシドニーで、一つはフィリピン、香港、台湾省のためにマニラで、一つは日本と韓国のために海老名市で、最後のセミナーはハワイのためにホノルルで開かれました。
 プログラムの中ではスライドやビデオも用いられ、血液の機能や成分、それに増加しつつある、同種血に代わる代替療法に関する説明が行なわれました。討議に際しては、血に関係する問題に直面したエホバの証人を援助する方法が扱われ、証人たちが医師や病院と協力し、医師が証人たちの立場に敬意を示しやすくすることの価値もセミナーで強調されました。日本のある委員は、「このプログラムによって、相互の理解を深めるこの活動に取りかかる準備が十分に整いました」と述べました。四か所で開かれたこのセミナーで、350人余りの様々な職業の証人たちが訓練されました。
 各国の支部事務所は訪問を受ける前に、エホバの証人に対する無輸血治療について話し合うため、大病院の著名な外科医や幹部職員との面会の約束を取りつけていました。支部ごとに三つのチームがそうした訪問のために割り当てられ、ブルックリンからの3人の代表者の一人が各チームの指導に当たりました。これにより、医療機関委員会の委員に割り当てられた人たちは実地訓練を受けることができただけでなく、医師や保健・衛生の専門家と話し合う際にも安心できました。この6週間にそのような訪問が55回余り行なわれました。
協力の架け橋
 結果は満足すべきものでした。オーストラリアでは、ある訪問チームがニュー・サウス・ウェールズ州保健省の次官と会って、多くの病院で無輸血手術を行なうことについて話し合い、オーストラリアはエホバの証人に対するそうした手術に関する南太平洋における中心地になり得ることを示唆しました。その次官は、そうした手術を行なう医師団が組織できない理由はないと考えました。オーストラリアでは22回の訪問が行なわれました。ある病院の院長は、「血の問題と代替療法に関しては、皆さんのほうが私たちよりもよくご存じです」と言いました。七つの病院から成るグループの最高責任者は、これから外科の一教授を任命し、エホバの証人に無輸血治療を施す外科医のチームを同グループ内の一病院に常設するという考えを必ず検討させるつもりである、と語りました。
 一部の人々から東洋一と評価されているマニラの心臓センターでは、心臓手術を待っている100人ほどのエホバの証人が血を受け入れないため一番後回しにされている、という指摘が同センターの院長に対してなされました。院長は、そのような慣行は中止させると語りました。フィリピンで最も名高い聖ルカ病院の院長に、医学文献が現在無輸血手術に関して述べている事柄を伝えたところ、院長は無輸血手術のほうが安全であることに同意し、「やがてそうなるでしょう。エイズと肝炎を避けるには、この方法しかありません」と述べました。また、エホバの証人が自分の病院の施設で無輸血治療を受けられる機会を設けたい、とも語りました。この人はこの病院の血液銀行の責任者でもあります。
 三日間にわたる日本のセミナーには、韓国からも5人の医師を含む44人のエホバの証人の代表者が出席しました。日本からは41人の医師を含む255人の証人の奉仕者が出席しました。その中には、脳神経外科医と麻酔医が数人、それに二人の弁護士も含まれていました。日本には20、韓国には七つの委員会が設置されました。
 セミナーの後、教訓者たちは地元の医療機関委員会のメンバーと共に東京地区の医師と病院を訪問しました。その目的は協力的な関係を培うことにありました。日本の一奉仕者は次のように伝えています。「私たちはある大学病院の産科の助教授を訪ねました。この助教授は、エホバの証人の妊婦を少なくとも10人は手がけています。そのうちの一人は、2,800tの失血があり、ヘモグロビンの量も100tの血液中3.5cまで下がりました。(女性の平均は14c)しかしこの医師は、輸血をせずになんとか出産させることができました。彼自身は仏教徒ですが、患者の信条を尊重するという信念を持っています。それで、エホバの証人の患者を引き受けることに同意しました」。
 横浜のある病院の院長は、進んで協力する病院のリストに載せられることに同意し、ほかの病院で治療を拒否されたエホバの証人の患者も喜んで引き受けると言いました。そして、「エホバの証人を輸血なしで治療することは大きな挑戦ですが、医師としての技術を向上させる機会にもなるので、私はエホバの証人に感謝しています」と述べました。これも横浜でのことですが、一人の婦人科医は、「患者の意志を尊重し、輸血をしなかったために訴えられることがあったとしても、私は患者の権利のために法廷で闘うつもりです」と語りました。
 韓国で設立された委員会からもよい成果が伝えられています。5月26日には延世(ヨンセー)大学病院への訪問がなされました。これは韓国中に知られた病院で、分院を三つ持っています。それらすべての施設から合計62名の職員が出席しました。麻酔学の一教授は“エホバの証人の患者に対する麻酔処置”と題する話をしましたが、その詳しい情報は韓国の麻酔学誌に掲載される予定です。そこは韓国有数の病院なので、他の病院や医師たちにも良い影響が及ぶはずです。そこで提起された質問は、日本のセミナーで十分に扱われたものばかりでした。
 ハワイでは五つの連絡委員会が設置され、委員全員がセミナーのためホノルルにやって来ました。彼らの大半はすぐに病院訪問を始めました。ハワイ・ヘルスケアセンターでは、院長が、会報にエホバの証人に関する記事を書いてそれをハワイ中の病院に送ることにする、と述べました。
 委員会はホノルルにあるハワイ最大のクイーンズ病院で、同病院が用いている同意書に、エホバの証人について誤り伝える不正確な言い回しがあることを指摘しました。そこには、証人たちが“命を救う”輸血を受け入れるよりも死を選ぶという意味のことが書かれています。それはエホバの証人の立場とは全く異なり、わたしたちが病院に来るのは自分の健康と命を守るためであることが明らかにされました。その言い回しは、血は全く良いもので、血を受け入れないなら必ず死ぬという印象を与えます。そのような言い回しは輸血による死の可能性を認めるものではなく、患者がどちらの危険を選ぶつもりであるかに関して、インフォームド・チョイス(十分情報を与えられた上での選択)を患者に提供するものでもありません。病院の弁護士は「見せてください」と言い、それを読んでから、「これを書いたのは私ではありません」と述べました。病院管理者は弁護士と一緒にその場を去る時に、『この書類は一緒に再検討しなければいけないだろう』と弁護士に言いました。
新しい委員会は目的を果たす
 ハワイでの訓練期間が終わってまだ数日もたたないうちに、一人の証人が重症貧血で病院に担ぎこまれてきました。彼女の血球値は危険なほど低下していました。出血が認められなかったので診査手術をしなければなりません。医師は無輸血手術を拒みました。彼女は別の病院に移されましたが、そこの医師も手術を拒否しました。そこで、設立されたばかりの連絡委員会が登場し、院長と主治医に話をし、患者は見捨てられたも同然だと説明しました。その医師は依然として手術を拒んだので、この件からはずされました。そこへ別の二人の医師が連れて来られ、手術を行なったところ、出血箇所が分かり、問題は正されました。エホバの証人の姉妹は生き延びました。連絡委員会が介入しなかったならこの姉妹は死んでいたかもしれませんし、報道機関は、またもやエホバの証人が“必要な輸血をせずに死亡”という言い方をしたことでしょう。事実を言えば、そのような場合に証人たちが死亡したのは、有能な医師なら命を救えたはずなのに、彼らが必要な手術をしなかったためなのです。
 ですから医療機関連絡委員会は、有意義な対話ならびに相互理解を通じて医学界とエホバの証人との間の溝に橋を架けるため、国際的な規模で活動しています。その活動は満足すべき結果を生み出しています。良質の医療を用い、巧みな手術を行なえば、エホバの証人の信条は十分に受け入れられると考える医師が増えています。米国の場合、6,500人余りの医師が快くそれに応じています。
 エホバの証人としては、患者になった場合、協力を惜しまない、道理をわきまえた者となるよう、これからも努力を続けてゆかなければなりません。ある医師たちはそのような努力を知り、エホバの証人は高潔な原則を固守するということで証人たちに敬意を示すようにさえなりました。東京のある医科大学に勤める泌尿器科の一助教授が述べたとおりです。「私はエホバの証人の患者を尊敬しています。今の時代には生きがいになる確かなものを持っている人はいませんが、エホバの証人の患者はそれを持っています」。
 これらのセミナーと訪問において全般的な目標とされたのは、一層敬意のこもった協力関係を促進し、そのようにして対立を避けることでした。この努力に関係した人々は皆、この目標は達成され、満足すべき成果を見ることができたと感じています。わたしたちは、エホバがこれからもそうした努力を祝福してくださり、み言葉の中で命じられているように、血を避けていなさいというエホバの指示に従う人々を支えてくださることを信じています。

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