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輸血拒否のための法的・技術的情報
エホバの証人のための無輸血療法の紹介
2000年1月1日更新

輸血を拒否するエホバの証人は、現在どのような医療を受けているのでしょうか。
以下に、エホバの証人が無輸血でどのような医療を受けているのかをわかりやすく説明いたします。

血液希釈法

これは、輸血が必要な患者に対して、血液の代わりに“リンゲル液”や“生理食塩水”といったの非血の結晶溶液を増量剤として注入する療法です。

このようなことをやってどのような効果があるのかと疑問に思われるかもしれませんが、この療法にはたいへんな効果があることが証明されています。
ここで、大量失血の患者の状態を想定してみましょう。
出血すると体内の血液量は不足状態になります。
そのため、心臓ポンプがいくら盛んに働いていても、全身に効果的に血液が行き渡ることはありません。
さらに、出血により急激に血圧が低下した場合、毛細血管が拡張するため、心臓へと循環する血液量が低下し、脳や心臓などの重要な臓器に血液が供給できにくくなります。
また、侵襲の大きな外傷や手術の場合、出血の多少にかかわらず機能的細胞外液量の著しい減少が生じます。これは簡単に言うと、血管内の血漿が組織へと移動することを指しています。
正常の人ではそれらの液体成分は浸透圧の関係で血管内に戻りますが、戻りにくくなります。
もちろん、血液流がなんとか維持されている箇所においても、出血により血圧そのものが低くなっているため、血流量は低下していることでしょう。
このままでは患者は酸欠状態によって死亡してしまうかもしれません。
その問題を輸血なしに解決するのがこの“血液希釈法”です。
血流中に増量剤が加えられると血圧は上昇しますので、こうして全身により効果的に血液が行き渡るようになります。
さらに、血圧の上昇により血流量も増加するため、同じヘモグロビン量で供給できる酸素量が上昇します。
こうして、患者は大量出血の危機から救出されることになります。
この療法の利点としては、増量剤には輸血よりも副作用がなく、輸血による副作用を回避できることなどが挙げられます。
一方、この療法の問題点としては、誤って血圧を上げすぎると患者が危険な状態に陥ること、止血が完全でない状況では出血量が増加し、ヘモグロビン値の減少につながることなどが挙げられます。
また、過去にはしばしば見られたものですが、血液希釈法を知らず、理解もしない医師のもとにエホバの証人の出血患者が運び込まれたときなどに、医師がそのような「ばかばかしい」療法を行うことを拒否してしまう場合があるかもしれません。
“血液希釈法”は、エホバの証人の無輸血治療により極めて有用であることが証明されていますが、ほとんどの医師たちにとってこれはおもしろくない療法のようです。
そういう事情により、“血液希釈法”がエホバの証人の患者以外に用いられることは現在でもめったにありません。

エリスロポエチン

“血液希釈法”は、大量出血時に緊急に容体を回復させるのに効果を発揮しますが、それ自身がヘモグロビン値を回復させることはありません。

血球数が増え、ヘモグロビン値が上昇しないことには、患者は危険な状態を完全には脱し得ず、かえって、いつまでも続く出血のためにじわじわ死にゆくことになりかねません。
血球は骨髄内において生産されますが、骨髄には大量出血時に血球を数十倍の速度で増産する能力が備わっています。
これを何らかの方法で劇的に高めるなら、患者は早期に回復し、容体が安定することでしょう。
人間の体内において血球量をコントロールする役割を果たしているのは“ヒトエリスロポエチン”です。
これは一般的には、腎不全による貧血、再生不良性貧血や骨髄異形成症状群などの難治性貧血の治療に用いられています。
この“エリスロポエチン”を投入することにより、出血患者の骨髄は刺激され、ヘモグロビン値は上昇します。
この“エリスロポエチン”は人間の体内にもとからある物質であり、あまり副作用がないことが知られています。
そのため、エホバの証人は緊急時に“エリスロポエチン”を大量に投与します。
“エリスロポエチン”は投与量もしくは投与回数に比例して効果を発揮します。
この療法の問題点としては、ヘモグロビン値の上昇とともに患者の血圧の上昇が生じることがげられます。
このような場合、急激な高血圧や血栓形成が起こり得ますから、注意が必要です。
また、“エリスロポエチン”には即効性がないため、大量出血時には“血液希釈法”などの他の療法との組み合わせが鍵となります。
また、予定手術においては、手術前からあらかじめ“エリスロポエチン”を投与することにより、許容できる出血量を上げることができます。
この“エリスロポエチン”の投与がめざましい成果を上げてきた事例として、出産に伴う大量出血の症例が挙げられます。
“エリスロポエチン”の大量投与は出産に伴ってしばしば生じる2000ccから3000ccもの出血から母親を救ってきました。
医師の中には、“エリスロポエチン”に即効性がないことを理由にその効果を疑う人たちがいますが、そのような人がしばしば指摘するような、先天性貧血患者に対する“エリスロポエチン”の投与例よりは、この療法は即効性があるようです。
現在は遺伝子組み替え技術により“ヒト遺伝子組み替え型エリスロポエチン”の大量生産が可能となっています。

鉄剤

血球は骨髄によって生産されていますが、そのためには原料となる物質が必要です。

“血清鉄”と“フェリチン”が血流中に十分になければ、“エリスロポエチン”の大量投与もたいして効果を発揮しません。
これらの原料を体内に供給するのが“鉄デキストラン”などの鉄剤です。
ですから、“エリスロポエチン”の投与には、鉄剤の平行投与が不可欠と言えます。
また、これにより赤血球の正常化が認められた場合でも、貯蔵鉄の補正のために、さらに数か月に及ぶ鉄剤投与が必要な場合もあります。

血小板増量剤

“インターキロン11”などの血小板増量剤は、体内における血小板の生産を促進し、血小板量を増加させることができます。

これにより、患者の回復を早めることができます。

たんぱく成分

血液中には、“アルブミン”“免疫グロブリン”のような、人体の免疫機構にかかわるたんぱく成分が含まれています。

これにより、出血により損なわれた患者の免疫力を高め、回復を早めることができます。
これらたんぱく成分の多くは、遺伝子組み替えにより大量生産が可能となっています。

酸素吸入

酸素吸入を行えば、少ないヘモグロビン量で多くの酸素を体内に供給できるようになります。

さらに、高圧酸素室を使用することもできます。
通常の状態において、体内に酸素を供給するのは血球内のヘモグロビンですが、酸素には水に溶けるという性質があるため、ある程度気圧を上げれば、患者はヘモグロビンを介さずに血流のみによって酸素の供給を受けることができるようになります。
ただし、この療法は酸素中毒を引き起こすため、長期にわたって使用することはできません。

低体温法

安静にしている患者の必要とする酸素量は、血液の酸素運搬能力の25パーセントです。

患者の体温を下げることにより、この量をさらに下げることができます。

低血圧麻酔

低血圧麻酔を行うことにより、やはり患者の必要とする酸素量を下げることができます。


レーザーメス

これは無輸血で手術を行う際にたいへん有用なものです。

レーザーメスは普通のメスとは異なり、組織のたんぱく成分を凝固させることによって毛細血管を塞ぐため、これを用いた手術にはほとんど出血がありません。
一般に用いられている外科用メスにより手術部位で出血が生じた場合でも、外科用ピンセットで出血している血管をはさみ、レーザーメスをピンセットに接触させて血管を凝固させるなら同様の効果を得ることができます。

循環式自己血輸血

これも手術の際に用いられる方法です。

これは、術中の出血をガーゼを使って拭き取る代わりに、人工心肺装置を用いて体内に戻すという方法です。
この方法を用いるなら、出血してもほとんど失血しなくなり、複雑な手術も安全に行うことができるようになります。
この療法がめざましい成果を上げてきた分野としては心臓手術の分野があります。
たとえば、これまで行われてきた新生児に対する心臓手術は後遺症が大きく、患者の健全な発育を妨げるものでした。
しかし、無輸血で行われる心臓手術には後遺症がなく、この方法で手術した新生児は健常者と同様の発育を遂げることが確認されています。

合成血液

ここ数年のうちに人工血液の開発が進み、第一世代の“パーフルオロカーボン製剤”である“フルオゾールDA”に代わるものとして、第二世代の“オキシジェント”が開発されました。

これは“フルオゾールDA”に比べて酸素運搬能力が5倍あり、副作用も減って実用レベルに達しています。
さらに現在、合成血液となる“ヘム製剤”に対する期待が高まっており、近いうちに実用化がなされることでしょう。

ホスピタル・インフォメーション・サービス

エホバの証人の受ける無輸血手術を支援する種々の組織やグループも、無輸血治療のための技術的要素の一面を成しています。

1988年1月、エホバの証人の統治体はニューヨーク市ブルックリンの世界本部に“ホスピタル・インフォメーション・サービス(HIS)”という部門を設置しました。
“ホスピタル・インフォメーション・サービス”は、無血療法に関する医学文献を調査したり、協力的な外科医に関する記録を作成して保管したり、“医療機関連絡委員会”のスタッフを訓練するなどの活動を通して無輸血療法の普及に努めています。

医療機関連絡委員会

“医療機関連絡委員会”は“ホスピタル・インフォメーション・サービス”の支援のもとに世界各地に設置された機関です。

“医療機関連絡委員会”は、無輸血療法を促進し、エホバの証人と医師との親睦を図るために地元の代表的な医療機関を定期的に訪問し、またセミナーも開催しています。
また、緊急時には病院に駆けつけ、医師に技術的情報を提供したり、輸血拒否に伴う法律の問題を解決したりします。

専門チーム

現在ではエホバの証人や他の患者を無輸血で手術するための専門チームが世界各地で結成されています。

また、専門チームの結成にまでは至らなくても、無輸血療法を受け入れることを公認している病院が数多くあります。
アメリカにはすでに、無輸血手術を専門に行う“無輸血病院”が設立され、様々な手術を無輸血で行っています。

輸血部

現在日本国内では、各病院に対し輸血部の設置が勧められており、そのための積極的な取り組みが見られています。

病院にとって輸血部を設置するということは、これまで病院の各部署においてばらばらに行われていた輸血が一元化され、管理可能になることを意味しています。
これにより、各病院は不要な輸血や血液製剤の投与を回避し、また、しばしば生じる型違い輸血などの問題を未然に防ぐことができるようになります。
このことにより、エホバの証人に対して行われているような無輸血療法が、エホバの証人でない一般患者にも適用される大きな機会が開かれることになるでしょう。

EBMと輸血改革

近年、諸外国においてEBMと呼ばれる手法の必要性が叫ばれるようになり、日本においてもその取り組みが進んでいます。

簡単に言うと、EBMとは、従来の医療理論や慣例にとらわれずに、統計的なデータや実践経験に基づいて医療を行うことを指しています。
特に輸血に関連して問題なのは、日本においては血液製剤ならびに新鮮凍結血漿の使用量が諸外国よりも多く、慣用によって、明らかに必要を越えた血液利用が行われているということです。
この問題は、WHOからも改善勧告が日本に向けて出されているほどで、それを受けて、厚生省の指導のもと、このような問題を克服するための努力が払われています。
特に、厚生省が毎年発行してきた「血液製剤使用の適正化について」と題する文書は、血液の無駄な使用を減らす点でかなりの成果を上げてきました。
さらに最近になって、厚生省の指導のもと、新輸血実施ガイドラインが作成され、これにより輸血改革が促され、不要な血液使用がさらに避けられるようになることが期待されています。
またさらに、実際の医療の現場においては、EBMは個々の患者の症例を入手可能な資料と実際に照らし合わせることにより、より最善の治療法を見極めることを意味しています。
近年はコンピューターとインターネットの普及により、医師たちは検索プログラムによる医療文献の検索や、メーリングリストの利用によって、これまで入手困難だった情報も容易に入手可能になってきています。
これにより、輸血を拒否するエホバの証人の治療はいっそう容易となり、エホバの証人以外の患者にも大きな益が及ぶこととなるでしょう。

以上の説明はあくまで簡易的なものであり、専門的なものではないため、種々の治療効果や副作用などに関する説明については、多くの点が省かれています。
これらの点について詳しくお知りになりたい方は、専門書等をお調べください。

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