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モスクワの当局がエホバの証人を提訴
2001年4月1日更新

 ロシアのモスクワ検察局が、1998年9月29日に「1997年宗教法」に基づいてエホバの証人を提訴しました。
 この宗教法は、ロシア政府がすべての宗教団体を再登録するというもので、この新法により「非伝統的」と格付けされた宗教団体は、文書の発行や伝道などが禁止され、事実上の宗教活動を停止させられることになります。
 このロシアの宗教法はカトリックをはじめとする主要教派の批判を受けており、人権擁護団体も今回の事件を問題とみなしています。

 エホバの証人を訴えたモスクワ検察局は、エホバの証人は危険な宗教であり、国家と家庭を損なうものであると主張している模様です。
 「目ざめよ!」誌1998年11月22日号及び「ものみの塔」誌1998年12月1日号は、こういった点についてロシアにおけるエホバの証人がどのような評価を受けているかを指摘しています。
 その記事は、1997年8月1日付けのプラウダサンクトペテルブルグ地方版が、エホバの証人のことを「すべてのセクトの中で最も危険なセクト」であるとする記事を掲載し、エホバの証人の人権を侵害する事件があったことを紹介しています。
 この記事は、「エホバの証人は会員に対し、相手が妻であれ夫であれ親であれ、もし理解せず、信仰を同じくしないなら退けるよう断固要求する」と述べるなど、事実とは正反対の主張を行ってエホバの証人を非難しました。
 この事件を受けてロシアのエホバの証人の団体は、報道紛争ロシア連邦大統領府司法部に提訴しました。
 調査が行われた結果、そのような宣伝は誤りであることが証明され、司法部はプラウダ紙に対し「エホバの証人の宗教組織を根拠もなく中傷する、信頼できない情報を掲載したことについて謝罪すること」を勧告すると共に、ロシア連邦国家印刷物責任委員会に対し、プラウダ紙に警告を与えるよう要請しました。
 この事件に関してロシア連邦ドゥーマ衆議院 V・V・ボルシチョフ氏は、「エホバの証人がカルトであると勝手に決めつけてレッテルを貼るということは極めて危険な行為である。真理を求めるエホバの証人の訴えを司法部が受け入れたことには非常に重要な意義がある。登録された宗教組織に対してそのような感情を示し、また侮辱を浴びせかけることはやめさせなければならない」と述べています。

 さらに、今回のモスクワ検察局の提訴には、政府内部の一部保守派勢力の圧力が関係しているとも言われています。
 ロシアの神学者であるセルゲイ・イバネンコ氏は、モスクワ・ニューズ紙にそのような問題を扱った連載記事を掲載しましたが、このように指摘しています。

「エホバの証人の集会場の前でピケを張っていた、ジリノフスキー率いるLDPR党の党員たちは、『派閥主義者め、ロシアから出て行け!』と書かれたポスターを掲げていた。私はピケを張っていたなかの一人に、『この組織のどこが気に入らないのか』と尋ねてみた。彼は私にメガポリス・エクスプレス紙を一部手渡した。『カムチャツカで宗教の梅毒発生』という見出しがついていた。エホバの証人は組織の銭箱を満たすため、売春の斡旋をして売春組織を運営しており、船乗りの間に性病を広めている、と同紙は言う。私は同情心を交えて、『君もその犠牲者なのか。君もその情報を信じているのか』と尋ねてみた。『それは重要なことではない』、とその人は答えた。『要は、このアメリカの宗派がロシアの霊性と文化をぶち壊しているということだ。我々はそれを阻止しなければならない』」。

「かなりの数の国がすでに、エホバの証人の教えは社会にとって脅威なのかどうかについて懸念し検討してきた。米国コネティカット州の最高裁判所(1979年)や、オーストラリアのニューサウスウェールズの最高裁判所(1972年)、またカナダのブリティッシュコロンビア州簡易裁判所(1986年)その他の裁判所は、エホバの証人が社会の脅威となっているとか、人々の健康や感情面に脅威を与えるといった証拠はないと明言した。ヨーロッパ人権裁判所(1993年)も、ギリシャとオーストリアにおいて制限されていたエホバの証人の信教の自由に対する権利を擁護した」。

「聖書の真理への専心、無私の精神で自分たちの信条を擁護するその意欲を考えると、エホバの証人は市民の模範とみなして差し支えない。しかし、ここで次のような疑問が生じる。我々の社会は、聖書的な方法を生活のあらゆる面でこれほど徹底的に適用して妥協することがない組織に対し、憲法で保障された良心の自由を与える用意があるのだろうか」。(「目ざめよ!」誌1997年8月22日号)

 このようなわけで、今回のモスクワ検察局によるエホバの証人に対する提訴には、エホバの証人がどのような宗教であるかを巡るロシア国内の極端な意見の対立が関係しています。
 この提訴が今後どのような結果を産み出すかは、今後のロシアにおける信教の自由の保証に深く関わる事柄であり、それゆえに多くの国際人権団体がこの事件を監視しています。


 驚くべきことに、モスクワ検察局による今回の提訴は「カルト宗教から青少年を救済する委員会」という人権擁護団体による主張を鵜呑みにした以外には何の打算もなしに行われました。
 しかも、この人権団体の挙げた実例は裁判で使えるようなものではなかったようです。
 こうして現在、検察側が証拠を提示できないという理由により、公判は重ねて延期されています。
 国際ヘルシンキ委員会の会長であるリュードミラ・アレクシェイバはこの提訴について、「非合法活動が行われたという証拠なしに行われている」ゆえに「違法だ」と述べています。
 ものみの塔聖書冊子協会の代表者であるユダ・シュローダー氏は今回の提訴を「資金の浪費」とさえ呼んでいます。
 さらに、ロシア連邦憲法裁判所顧問のV.A.Kikotはこの提訴を「政府の気まぐれ」と呼び、「少数派宗教団体の支持者たちに対する政府の人権侵害が慣例となる」ことに対する危惧を表明しました。
 その後、モスクワで裁判が継続中であるにもかかわらず、ロシア政府は、モスクワの裁判は無視して、エホバの証人を再び宗教として認めるという立場を示しました。
 この問題について、「エホバの証人の年鑑」2001年版は次のように報告しています。

「ロシアのモスクワでは、同市のエホバの証人の法的な代表権を剥奪することを目的とした裁判がいまだに結審していません。今のところ、モスクワの兄弟たちは、大いに必要とされる王国会館の建設許可を得ることができていません。しかし、1999年11月23日、ロシアの憲法裁判所は、ヤロスラブル会衆のための訴訟で有利な判決を下しました。ヤロスラブル会衆は、宗教に関する1997年の法律が求める15年間の存続期間を証明する書類を提出することができませんでした。そのため地方当局は、この会衆が宗教文書の輸入と配布を中止すること、また一人のドイツ出身の兄弟がモスクワ市内での活動をやめることを求めました。同裁判所は、エホバの証人の場合のように、全国的なものとしてすでに法的に登録されている「集権的宗教組織」に属する会衆に対して、15年存続の法の要求は適用されないと裁定しました。ロシア法務省によるエホバの証人の再登録は1999年4月29日に承認されていたのです」。


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