新世界訳
エホバの証人の聖書

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詩編 110:3

◇ 新世界訳参照資料付き聖書 ◇ (エホバの証人)
あなたの軍勢の日に、あなたの民は進んで自らをささげます。神聖さの光輝のうちに、夜明けの胎から、あなたは露玉のような若者の隊を得ておられます。

◇ 新共同訳聖書 ◇ (カトリックとプロテスタント)
あなたの民は進んであなたを迎える 聖なる方の輝きを帯びてあなたの力が現れ 曙の胎から若さの露があなたに降るとき。

◇ 新改訳聖書 [第三版] ◇ (ファンダメンタル)
あなたの民は、あなたの戦いの日に、聖なる飾り物を着けて、夜明け前から喜んで仕える。あなたの若者は、あなたにとっては、朝露のようだ。

◇ 口語訳聖書 ◇ (プロテスタント)
あなたの民は、あなたがその軍勢を 聖なる山々に導く日に 心から喜んでおのれをささげるであろう。あなたの若者は朝の胎から出る露のように あなたに来るであろう。

◇ 文語訳聖書 ◇ (プロテスタント)
なんぢのいきほひの日になんぢの民は聖なるうるはしき衣をつけ 心よりよろこびて己をさゝげん なんぢは朝(あした)の胎(はら)よりいづる壯(わか)きものの露をもてり

◇ 現代訳聖書 (尾山令仁訳聖書) ◇ (プロテスタント)
あなたの民は、あなたの戦いの日に、聖(きよ)さを身にまとい、夜明け前から、喜んで身をささげる。あなたは、朝露のように若々しい力を持たれる。

◇ 岩波訳聖書 (旧約聖書翻訳委員会訳聖書) ◇ (エキュメニカル)
あなたの民は欣(よろこ)んであなたにつく、あなたの兵力の日に。聖なる栄誉の中で 曙の胎から あなたには露があなたの若者たち。

◇ バルバロ訳聖書 ◇ (カトリック)
主権はあなたのもの、あなたの生まれた日から、母のふところから、あなたの若さのはじめから、聖なる山の上で。

◇ リビングバイブル ◇ (ファンダメンタル)
あなたのご威光が輝き渡ると、国民はきよい祭服をまとって、いそいそとやってまいりましょう。あなたは、朝露のように、日々新しい力を帯びられます。



 新共同訳聖書と新改訳聖書と岩波訳聖書(旧約聖書翻訳委員会訳聖書)とリビングバイブルは、「民が自分をささげる」という意味のところをそのまま訳すのを嫌って、訳文に手を加えたようです。おそらく、訳文が「戦争の祭壇に若者がいけにえ」という意味合いになるのを嫌ったのでしょう。
 「聖なる輝き」のところ、「輝き」は「飾り」とも読めることを理由に、新改訳聖書と文語訳聖書と現代訳聖書とリビングバイブルはそれは服飾のことであると読んでいます。口語訳聖書とバルバロ訳聖書は、綴りの違う写本の読みを採用して、「聖なる山々」としています。
 バルバロ訳聖書の訳文はかなりの意訳であるようです。

 ここをヘブライ語で見てみるとこんな感じになります。



詩編 110:3 原典講読

עַמְּךָ נְדָבֹת (あなたの民は自発的な捧げ物/七十人訳では「支配権はあなたのもの」)
בְּיֹום חֵילֶךָ (あなたの力の日に/あなたの戦争の日に)
בְּֽהַדְרֵי־קֹדֶשׁ (聖なる輝きのうちに/聖なる飾りのうちに/読み替えると「聖なる山々で」)
מֵרֶחֶם מִשְׁחָר (曙の胎から/「夜明け/夜明け前」の意味か?)
לְךָ טַל יַלְדֻתֶֽיךָ׃ (若さの露はあなたに/若者の露はあなたに)



 聖書の訳文を決定するために考慮しなければならない要素は幾つかあります。



○ 訳業における重要な4つの要素

本文の研究 (写本や訳本)
文法の知識 (単語や構文)
文脈の考察 (文意や構造)
神学の考察 (矛盾や不備)



 詩編 110:3の場合、訳文を決める上で重要な要素は本文と文脈であるようです。本文についてはすでに扱いました。では文脈についてはどうでしょうか。
 詩編 110編は並列の構造(並行構造)を持っており、その構成はこのようになります。



詩編 110編

◇ 新世界訳参照資料付き聖書 ◇ (エホバの証人)
[A1] わたしの主に対するエホバのお告げはこうです。「わたしがあなたの敵をあなたの足台として置くまでは,わたしの右に座していよ」。
[B1] あなたの力の杖を,エホバはシオンから送り出して,[こう言われます。]「あなたの敵のただ中で従えてゆけ」。
[C1] あなたの軍勢の日に,あなたの民は進んで自らをささげます。神聖さの光輝のうちに,夜明けの胎から,
[D1] あなたは露玉のような若者の隊を得ておられます。
[A2] エホバは誓いをお立てになりました。(そして悔やまれません。)「あなたは定めのない時に至るまで,メルキゼデクのさまにしたがう祭司である!」
[B2] エホバ自らあなたの右にあって,その怒りの日に必ず王たちを打ち砕かれます。
[C2] [神]は諸国民の中で裁きを執行し,死体を満ちあふれさせます。人口の多い地を治める頭たる者を必ず打ち砕かれるのです。
[D2] 道の途中にある激流の谷から彼は飲みます。それゆえに,彼は[その]頭を高く上げられるのです。



 この文章は8つの構成要素があり、前半4つと後半4つが対応しています。詩編 110:3は上の[C1]と[D1]にあたり、[C2]と[D2]に対応しています。
 そうするとどうでしょうか。[C2]が神の裁きについて述べていますので、[C1]は戦争に関する記述であると理解しなければならないようです。ここの翻訳にあたって戦争の意味合いを消し去っている聖書翻訳が見られますが、どうやらこれは不適切であるようです。
 続いて[D2]ですが、ここでまず問題となるのは「彼」がだれであるかということです。神でしょうか。それとも[A1]と[A2]で示されているメシアでしょうか。[D1]との関わりから、これは神である可能性が高いようです。しかし、構造にあまりこだわらないでこれをメシアと取ることもできそうです。
 彼には朝の露と川の水が与えられます。[D2]との関わりから、神自身が朝露であるという訳文は不適切であるようです。ここは神が朝露を得るという訳文でなくてはなりません。
 ここまで検討すると詩編 110:3の訳文の取るべき姿がかなりはっきりしてきました。最後に問題となるのは「若さ」という表現です。これは神が「若さ」という露を得るということを意味しているのでしょうか。それとも「戦闘に参加する若者たち」という露を得ることを意味しているのでしょうか。これについて文脈から決定することは難しいようです。というのも、この「若さ」という語に関する限りにおいて[D1]は[C1]の「民」に対応しているかもしれないからです。このへんの判断は翻訳者の裁量にゆだねられることになるでしょう。

 さて、上の構成を見て、[C1]と[D1]の区切りが気になったという方もおられるでしょう。聖書のマソラ本文につけられている符号は、「あなたの力の日に」のあとで文を切らず、「曙の胎から」のあとで文を区切るように求めています。



○ マソラ本文の符号の要素

発音の表記
文法の表記



 新改訳聖書など幾つかの翻訳はその指示通りに訳文を組み立てています。しかしこれは不自然だということで、口語訳聖書のように「曙の胎から」の前で文を区切る場合もありますし、新世界訳聖書のように「あなたの力の日に」のあとで文を区切る場合もあります。
 マソラ本文の符号は後代に付け加えられたものですので、聖書原典に付属しているとはいえ聖書原典の一部ではありません。ですから、その符号の指示が不自然であると思われるときには、翻訳者の裁量によりそれが無視されてしまうこともあります。